2005年05月01日

「エレニの旅」を観る

さて、アンゲロプロス御大の待ちに待った新作が
このほど封切られましたので、行って参りましたシャンテシネ。

物語は1919年の赤軍占領下のオデッサから脱出し、
難民として故郷にたどり着いたギリシャ人の一団のリーダー格の男に
孤児として拾われた少女、エレニが辿ることになる運命を描いた悲劇。

最初にぶっちゃけちゃえば、
個人的には前作「永遠と一日」の方が較べられないくらい好きですな。
まぁ、「永遠と一日」が私的ベストムービーだからってこともありますが。
あと、音楽がねー、「永遠と一日」と殆ど変わり映えしてなくて、
「永遠と一日」のサントラを持っている人間としてはちょっとがっかり。
あ、あと黄色の雨合羽ーズも出ていなかったな、そう言や。
まぁ、これは別にいいんだけれども。

基本的に、前々作の「ユリシーズの瞳」の時もそうだったんだけれど、
アンゲロプロスは「歴史」を前面に出すとどうも画面が恐くなると言うか。
なんと言うか、登場する人物が没個性化されて、容易に近づけなくなってしまうと言うか。
紡ぎ出される物語だけではなく、描き出される感情すらも
無限大に普遍化され拡散されて、容易に掴めないとでも言えばいいのか……。
いやいや、勿論描かれているものはよくわかるんです。
わかるんだけれども、自分に引きつけられないような
ある種のよそよそしさを覚えてしまうのは自分だけですかね。

……ただ、それを退屈というレベルに堕することなく、
アンゲロプロス特有の緊張感という形で画面に漲らせてしまうのは
さすが……って言うか、もうなんて言うか、ありえないんですよね、全てが。
映し出されるワンシーンワンシーンに名状しがたい凄みがあって、
とにかくもう圧倒されてしまうんですわ、うわ、なんだこれってな感じで。
例えば、冒頭でエレニの育った寒村を映すシーンがあるんですが、
カメラが徐々に引いていってやがて俯瞰ショットになって、
村全体が映し出されるんですね。
もうね、この俯瞰ショットだけでなんだか知らないけどスゲーって感じなんだよね。
それは例えば村のリアリティがどうだとかってことは言えるんだけれど、
そういった説明を凌駕する途方もない実在感に打ちのめされると言うか……。

そういう印象深いシーンが、この作品には凄くたくさんある。
楽団流の歓送迎シーンとか、悲壮な覚悟のエレニをみんなで励ますシーンとか、
黒い弔旗を掲げて去っていく一群の船団とか、
アレクシスとエレニの別れのシーンとか……。
中には余人がやったなら「臭い演出」として
一笑に付されてしまうようなのもあるんだけれど(急に踊り出したりとかねw)、
なんの外連味なく極平然と、一切を同一のベクトルで
描き切ってしまっているがゆえに違和感も覚える隙がないのですわ。
これはもうはっきり言って、一幅の絵なんですね。
ワンシーン・ワンシーンがそれ自体である美しさを湛えた
絵画の領域に入ってるとでも言いますか。
ただひたすらに"視ること"を要求し続ける作品とでも言いますかね。

とにかく、アンゲロプロスお馴染みの長回し超ロングワンショットといい、
状況説明を一切省いた"場"の接続といい、それらすべてが全く破綻することなく
一つの作品に見事に収まっているという意味で、
映像表現の極北を行く作品なのは確かでしょう。
詩的映像というものがどういものかを体感したい人は必見の一本ですな。
とにかく凄まじいですから。
現代でこんな作品撮れる人はアンゲロプロスをおいて他にいないです。

ちなみに、この日の開演前の予告編では
本作に因んで「愛」をテーマにした予定作がセレクトされていたんですが、
これがなかなか秀逸なセレクションで。
ハリウッドのナンパ系作品(「最後の恋のはじめ方」)から
硬派系(「アルフィー」)、ヨーロッパの硬派系(「モディリアーニ」)と続き、
最後にゴダールの新作「ノートル・ ミュージック」がババーン。
このゴダールの予告編の音楽が素晴らしく印象的でねえ。
この作品は是非観てみたいと思いますた。

posted by 仙道勇人 at 21:28 | Comment(4) | TrackBack(14) | 劇場鑑賞報告
この記事へのコメント
はじめまして。コメント&TB失礼します。INTRO+blogのほうにも貼らせていただきました。

>容易に近づけなる没個性化

目からうろこでした。その集合体が織り成す恐怖。どれだけ1カットで引っ張ったとして、それでも計算しつくされた動きもまた恐ろしく思います。
Posted by ソウウツ at 2005年05月09日 02:24
ソウウツ様、いらっしゃいませ!
そしてコメント&TBありがとうございます!

確かに計算され尽くされているんですよねー。ですから、何か違和感があった場合、そこにはきっと何らかの狙いがあるはず、と言い切れるのもアンゲロプロスだけの特徴ですよね。
しかし、これ完結したら映画史に残りますね。
Posted by 仙道 at 2005年05月11日 00:31
ゴダール新作の予告編は笑えました。
「黒沢が、ハスミが、阿部が、青山が、中原が、、、」
アチャー誰だよこんなの許したのはという。
サムさを通り越して感動しました。
Posted by 秋日和 at 2005年05月11日 12:13
秋日和様、わざわざどうもです!
あれはね……、個人的に予告編でのああいう煽りは無視するんで、寒いとも思わなかったんですが(と言うか、そう言われるまでそんなのがあったことすら忘れてましたよw)、あの直後にかかる楽曲の旋律が印象的でしたなぁ。
作品は……どうなんでしょうね?
ゴダール……実はちょっと苦手なんですw
Posted by 仙道 at 2005年05月11日 14:49
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